80代、女性。
元々右耳がやや聞こえ難く定期的に耳鼻科で検査を受けていた。
今回は、徐々に左耳も聞こえ難くなってきたため、
医師から補聴器を勧められてご来店。
【来店時の聴力】
平均聴力の正常とされる範囲は縦の数字25dBよりも若い数字。
こちらのお客様の平均聴力は右60dB、左44dB。
【ご本人の希望】
補聴器は左耳にだけ着けたい。
右耳にはもし将来、障害者手帳が交付されたら着けたい。
充電式がよい。
【ご家族の希望】
以前、集音器をプレゼントしたが、あまり使っていない様子……。
大前提として、補聴器は、耳に着けられてきちんと使えるものが良い。
実際にプレゼントした集音器を見せていただきました。
非常にかわいらしく、見ためがイヤホン型の集音器です。
ご本人様によると、
「充電式で便利ではあるが、気になる部分があって使わない事が多い」と。
Q, どんな部分が気になって集音器を使わないのでしょう?
A, 「あまり言葉が聞こえない。着け心地も悪い……。」
との結論でございました。
【集音器と補聴器の違いについて】
集音器は家電。補聴器は医療機器
補聴器は薬機法に従い厚生労働省の認定を受けた「管理医療機器」で、難聴者が使用する前提で開発されています。製品ごとに医療機器として定められた厳しい検査を受け、効果や安全性について一定の基準をクリアしてから初めて製造販売ができます
家電である集音器はそのような認可を受ける必要はなく、聞こえに対する効果や耳への安全性に対して決められている基準もありません。その分補聴器に比べて機能がシンプルな場合が多く、比較的安く購入できます。また、難聴者に向けて開発されていないものもあります。
補聴器は「聴力に合わせて足りない音を大きくするもの」です。一般的に集音器は「すべての音を大きくするもの」です。
「耳が悪くなった」と一言で言っても、実は音の高さによっては十分に聞こえていることがあります。加齢性難聴の場合、高い音から聞き取りにくくなりますので、高い音だけを必要な分だけ大きくすればよく聞こえるようになることが多いのです。
補聴器は、マイクで拾った音をまずは分析し、音の高さごとに分割します。補聴器は使用者がどの高さの音が聞きにくいのかを知っていますから(補聴器販売店で設定してもらう)、その人が聞こえない高さの音を必要なだけ大きくし、聞こえる高さの音はあまり大きくしないでスピーカーから出します。(本当はもっと複雑なのですが、シンプルにご説明しました。)
それに加えて、騒音の中で言葉を聞き取りやすくする機能や、雑音は大きくしない機能、ハウリングを防止する機能など、補聴器は難聴者が安心して使える様々な機能を搭載していることがほとんどです。また、多くの補聴器には「大きすぎる音が入力された場合、一定以上大きくしない」という制限機能が付いています。
では集音器はどうでしょうか。
多くの集音器は、マイクで拾った音を一律に大きくしてスピーカーから出すので、ちゃんと聞こえている音や大きくする必要のない雑音も、大きくなってしまいます。そのため、うるさすぎたり、時には耳にダメージを与えたりすることもあります。
先に挙げた聴力測定の結果を元に、
個々人のお耳に合わせて音を調整していくのが補聴器で、
聴力測定をせずにただ単純に音を増幅するのが集音器です。
補聴器は、聞こえにくい音は大きめに、聞こえやすい音は控えめに増幅します。
また、雑音抑制という環境音を穏やかにする機能が付いたものもございます。
(聞こえに悩みがない方も、ライブハウスや花火大会などで、大きな音を聞いた後
に耳がボーッとして聞きづらくなった経験はありませんか?
大きすぎる音はお耳にとって良くありません。)
補聴器は、大きすぎる音で残存聴力を弱めないように制限が掛かる仕組みも
併せ持っており、音が補聴器に入ってから緻密な処理を行い、
殆ど時差なく着けている方の聴力を補充した音がお耳に届けられます。
補聴器は小さなボディに、技術が詰め込まれたすごいアイテムなのです!
それに対して、すべての音をほぼ一律で増幅する集音器。
補聴器は合わなければ、比較的細かな「調整」が出来ますが、
集音器はボリューム調整機能以外が付いていないものも多いです。
その為、人によりどうしても「合う/合わない」が出やすい傾向にあります。
また、こちらのお客様は右耳が20年以上聞こえ難かったということでしたが、
残念ながら右耳には左耳ほどの弁別能(言葉を聞き取る力)がありませんでした。
集音器を着けても思いどおりに言葉が聞きとれなかったのは、
この弁別能の低下も理由の一つと考えられます。
【試聴】
しかし、右耳は補聴器により全く機能しない…という訳では決してなく、
左耳の補助となる聞こえはしっかりと有しておりました。
加えてもし将来、障害者手帳を取得したら、
補助金によって右耳にも補聴器を着けたいという想いもおありでした。
そうなってくると……
そもそも、今ですら耳に物を入れるのが嫌なご様子。
もっと歳をとってから果たして着けられるでしょうか?
右耳の言葉を聞きとる力も益々低下してしまう可能性が考えられます。
先々のことを視野にいれ、試聴は両耳で実施しました!
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【形選び】
ご予算に合う中から幾つかお試しいただきました。
①既製耳穴型 「シグニア補聴器 プロンプトクリック」
(※補聴器からケーブルが生えていますが、店内で調整をするときだけ取り付けるものです。)
今まで使っておられた集音器と似たようなイヤホンの形ですが、
「ちょっと着け心地が……合わない……」とNG。
若干右耳の音量が物足りなさそうな様子でもあり、
かつ電池式というのもネックだったようで、別の機種を試すことに!
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②耳掛け型「リサウンド補聴器 キー」
小型耳掛け補聴器特有の軽い着け心地の良さと、
充電式ながらお手頃価格を実現した器種です。
据え置き型の充電器は、挿すだけで使える簡単な仕様です。
(髪色に馴染むカラーを選択)
耳に掛けるという構造上、マスクや眼鏡に引っ掛かるなど多少の干渉はしますが、
マスクや眼鏡の着脱方法を工夫するなど慣れと練習である程度カバーできます。
こちらのお客様は手先がよく動かれるので、スムーズに着け外しができました。
【ご本人の感想】
耳掛け補聴器は、思ったよりも目立たず、着け心地が良い。
もっと雑音がうるさいかと思ったらそうでもない。
耳が軽いので、これなら両耳でも長く着けていられる。
【ご家族の感想】
髪の毛に隠れてしまって目立たない。
普段は普通の大きさの声で話しかけると聞きとれていないが、
着けているとしっかりと聞き取れている。
【その後のご様子】
ご本人やご家族様との話合いの結果、将来を考えて今から右耳も補聴器に
慣れていただくこととして、両耳でお買い上げとなりました。
お一人暮らしとのことですが、充電、お手入れも問題無くできておられるとのこと。
素晴らしいです!
次回点検の際に、調整のご相談を行う予定です。
【まとめ】
集音器と補聴器の違いについて詳しく触れていきました。
落ち着いた価格で市販されている集音器ですから、
試してみてお耳に合ってよく聞こえれば、一番よいと思います。
ただ、やっぱり合わないこともあるのだと、
この度の記事からお分かりいただけたことでしょう。
そんな時は、別の集音器を買うのではなく、
一度補聴器専門店に足を運んでみてはいかがでしょうか。
お耳に合うものが見つかるかも知れません。
お気軽に「お問い合わせ」フォームよりご連絡くださいませ。